東京都のとある自治体様より、マインドフルネスの企業研修についてお問合せをいただきました。この機会に、マインドフルネスを、企業研修に取り入れる、という切り口から複数回に分けてマインドフルネスについてご紹介します。企業研修への適用も日常生活への適用も根っこの部分は同じですので、本稿は日常生活への適用の参考にもなるかと思います。
初回は、ストレスへの対処、レジリエンス(回復力)に焦点をあてます。
私たちに職場でストレスを与える事柄を考えてみて下さい。そして、それらを、過去、現在、未来のことに分類してみます。どのカテゴリーに入るものが多いでしょうか?クラスで皆さんにお尋ねすると、大体は過去や未来のことという答えが返ってきます。また、現在のことに見えることも、今この瞬間のことではなく、近い過去や未来(2時間前の出来事、2時間後の予定)のことです。つまり、私たちは、今この瞬間ではなく、過去や未来のことに頭を悩まされています。
マインドフルネスでは、心を今に向けることで、無駄に過去についてクヨクヨしたり、起きていない未来を必要以上に心配したりすることから距離を置くことを学びます。
過去について反省することと、クヨクヨすることは違います。変えられるのは今この瞬間だけです。反省が過去に起きたことをベースに未来をよりよくすることであるのならば、過去についてクヨクヨすることには意味が無く、ただ今何をするかを考え、具体的にアクションをとることだけが意味の有る行動です。
また、未来について無駄に心配することも意味がありません。例えば、言いにくいことを上司・部下やお客さんに言わなければならないことがあるとします。この時、どうしても「こういったら相手はどう思うだろうか?激しく反発されるのではないか?」という気持ちをもち、ストレスを感じます。場合によっては、この緊張のために、電話・面会の日程を決めることがずるずると後伸ばしになり、その間、ずっとこの緊張を強いられることになります。最終的には、相手の反応は、話してみるまでわかりません。もちろん、想像していたような反発もあるかもしれませんが、その苦味を感じるのは(感じるとすれば)その時だけでよいはずであり、必要以上に助走期間を設け、その期間もずっと苦味を感じる必要があるでしょうか。
このように、まずは、今に意識を集中することで、過去のクヨクヨ、未来の不安、から距離を置くことが手立てであるという前提にたち、具体的には瞑想や認知の有りかた通じてそのような心の態度を育てていきます。
ただ、そうはいっても、そのような過去や未来から生じるストレスを感じることもあるでしょう。その時は、その感情に飲み込まれたり振り回されたりしなないようにすることが、次の対処です。クヨクヨや不安は、避けようとすればするほど、追い払おうとすればするほど、力を持ちます。追い払おうとする努力自体が、そのことを自分の意識に印象を与えることになり、例えれば、好ましくない考えに餌を与えて育てるようなものです。その思考にはまると、水が水路を深く掘っていくように、思考の水路が深くなっていき、そこから脱出するのが難しくなっていきます。
これにどう対応するか。ここでは、あえて、そういった感情を持っていることを認めます。そして、その苦味をそのままに観察してみます。そのような苦み・不安は、遠目から見るほど力を持っているように見えますが、近づいてみると、思ったほど力を持っていないことがわかってきます。苦味を味わう覚悟ができると、苦味が永久に続くものではなく、変化していくものであるということが感じ取れると思います。苦味を追い払おうとし、苦味が去った状態を事前に期待すると、追い払えないことによる深い苦しさが訪れます。逆説的ですが、期待をいったん手放し、苦味を追い払おうとしないことが、却って苦味を自然消滅させることにつながるということになります(※)。
ただし、こう考えると、「手放すことによって苦味を無くす」という期待が新たに生じることになります。そのため、マインドフルネスにおいては、少なくとも短期的にはあらゆる期待を捨て、現象をあるがままに見るという態度を養うことが必要になります。
次回以降も切り口を変えてご紹介していきます。
※ただし、過去のトラウマがあるようなケースは、専門医への診察をお勧めします。