マインドフルネスの企業活用への適用の第2回目です。今回は、判断力、集中力にどのような影響を与えるかのロジックをご説明します。
私たちは、いろいろな気を散らす思考や、判断力を鈍らせる思考に取り込まれています。
まず、ストレス低減の項でもご説明した通り、過去の後悔やくよくよ、将来の不安などが頭をよぎります。これによって、仕事が手につかない、ということもあるでしょうし、不安から来る一種のパニック状態に陥って仕事を始めることができないこともあるでしょう。実際には、不安がるよりも一つでも手を動かす方が状況の改善が見込めるのですが、不安思考に陥っている時はそれがなかなかできません。
また、判断力を鈍らせる様々な要因もあります。例えば、人間関係が原因で、必要なタイミングで必要な人にコンタクトできないケースや、自分自身の利益を過度に優先することで適切でない判断をすることもあり得ます。人間関係は現在のことにも見えますが、他人に対する好き嫌いは、記憶の倉庫から過去の出来事を引っ張ってきているが故であり、その点から行くと、過去のこと言えます。例えば、嫌いな人がいる場合、それは過去にその人から嫌な印象を受けたことが原因です。そうすると、「どうせあの人に言っても嫌な顔をされるだけ」という先入観や嫌悪の気持ちが生じ、必要なアクションがなされない、または遅れることがあります。このような自動的に他者や現象を評価する思考パターンは、考える労力を減らす意味でプラスに働くこともありますが、時には先入観が創造性の芽を摘んでしまったり、「どうせやっても無駄」という諦めの気持ちをもたらしたり、といったネガティブな方向に働くこともあります。そのため、まずは、自分のなかに自動的に判断する思考パターンがあるということを認識し、その時々で使い分けをできるのが最も好ましく、マインドフルネスの練習は、まずはその思考パターンの気づき得ることを目指します。
これをイメージで表したのが下記の図です。
思考が乱れた状態では、不安・心配や先入観などにより、自分の心が引っ張られてゆがめられ、判断力も乱れ、偏った考えや注意散漫な状態に陥ります。これに対し、マインドフルな状態では、呼吸や身体感覚を錨としてクリアな状態に心を保ち、ここからわき起こる様々な思考と距離を置くことができます。ここでの一つのポイントは、さまざまな不安・心配、しがらみといった要素を無くすことではなく、存在することを認め、その付き合い方を変えるということです。すべてを劇的に変えるのではなく、少しずつ自分の気づきを増やしていき、物事への対処を少しずつ変えていくのがマインドフルネスで身につけていく態度です。
INSEAD大学によると、マインドフルネスがサンクコストバイアスを低減させるという研究結果も出ています。最初に下した判断でだしたロスを切りたくないがために、より深い損失をだしてしまうというのがサンクコストバイアスですが、この研究では、今に意識を向けることで、そのバイアスから逃れる力が強くなると説明されています(英語)。
https://www.insead.edu/news/2014-insead-wharton-meditation