前回、前々回とマインドフルネスの基本ロジックや、基本的な瞑想のやり方を説明しましたが、それではマインドフルネス瞑想を通じて目指すべきことは何なのでしょうか。
マインドフルネスにもいろいろな種類があります。EQに焦点を当てたGoogle社の”Search Inside Yourself”、アメリカのマサチューセッツ大学医学部が発祥の”Mindfulness-Based Stress Reduction(MBSR)”、イギリスでうつ再発予防のために開発された”Mindfulness-Based Cognitive Therapy(MBCT)”など、それぞれ狙うところも少しずつ違います。
ただ、当センターで考えるマインドフルネスの最初の狙いは、「物事への新しいかかわりかたを育てること」です。言葉を変えると、「思考への新しいかかわりかたを育てること」、ということです。
例えば、職場で上司からある点を指摘されたときに、「叱られた、自分の評価が下がった」と思うか、「いいアドバイスをもらった、上司は自分に期待してくれている」と思うかは、同じ「ある点を指摘された」という事実に対する思考パターンによって変わります。
そして、私たちは気づかないうちに、日常生活のあらゆるところで、自分の普段使っているパターンを適用しており、時にはこれらの固定した思考パターンが自分をネガティブな思考のスパイラルに導きます。
マインドフルネスにおいては、これらの思考とのかかわり方を学びます。思考は、気づいていない状態では自分そのものとしてふるまいますが(私たちは「思った通りに行動する」)、思考は自分自身ではなく距離を置けるものと理解すれば、頭を支配する思考のとおりに行動する必要はなくなります。先ほどの例では、「自分の評価が下がった」というネガティブな思考が湧いたときに、それが事実だと感じてその思考に力を持たせると気が滅入ります。それに対して、「『自分の評価が下がった』と思っている」と一段階離れることにより、思考は観察すべき対象となり、必ずしもその思考に従う必要がないことが理解できます。
そして、思考自体がわき起こることを止めることはできません。あくまで私たちができるのは、すでに湧き起こった思考との付き合い方を変えることです。瞑想というと、思考の無い無の状態を目指すととらえている方もいますが、マインドフルネス瞑想においては、湧いてきた思考に柔らかく対処する、というスタンスをとります(「呼吸に意識を向ける練習(マインドフルネス瞑想の基礎)」の呼吸に意識を向ける瞑想のStep4にある通り、浮かんできた思考を追い払わないようにします)。
これらのことは、頭で理解することが第一歩ですが、これを実際に日々の生活で実践することとの間には訓練が必要となります。マインドフルネス瞑想は、これらを直接的に体験することで、体の感覚として理解することを狙う、心のトレーニングです。
そのために、座る瞑想により、呼吸を錨として、わき上がる思考に引きずられず自分の中心、ゼロ地点に戻ってくる、そのような注意力を育てるのです。